エピローグ
「O−6です」
「はい?」
「O−6です」
「なんですか、それ」
「病原性の大腸菌です。O−157とかの古いやつです。なんかインドでもらってきちゃったんでしょう」
インドから帰国した後もしばらく下痢が止まらなかった僕は、近所の病院で診察を受けていた。
インドにいる間は下痢であることが普通で、一日5〜6回の下痢をあまり気にしていなかったのだが、日本に帰ってからもこれが続くとさすがに親が心配する。
病原性大腸菌O−6の他に、もう一つ僕がかかった病気がある。
それは「インド病」という病気である。
「インド病」とは、カリスマバックパッカー蔵前仁一さんが書いた『新ゴーゴー・インド』を引用すると、
インドでかかる心の病気。かかる人とかからない人がいる。この病気の特徴は ? 何かものを言うとき、必ず最初に「インドでは…」と言う ? 買い物をするとき、やたらと値切る ? 仕事が嫌になってナマケものになる ? 食事のとき思わず右手を出してしまう ? とにかくインドが恋しくなる 等々である。 一度かかってしまうとインドに行く以外に治す手段は無いが、 インドに治療に行って更に病気が悪化してしまう人もいる。
・・・と、ある。
僕は日本ののっぺりとした平穏さと刺激のなさに、ほとんど鬱状態になってしまった。
インドに帰りたくて仕方ないのだ。
インドに一度行った人は、もう二度と行きたくないと思うかハマッてしまうかの両極端に分かれるとよく言われるが、どうやら僕は完全にインドにやられてしまったようだった。
ことあるごとに「インドだったらこうなのに」と思ってしまうのである。
僕は思い切ってこのことを田中君に相談してみた。
「実は俺もそうなんだよ。なんか何やるにもやる気起きないんだよな。ハプニングがないというか。 ・・・インド。懐かしいな」
講義が終わり駅へと歩を進める僕に、ここでは誰も話しかけてはこない。
行き交う人はみんな他人に無関心に見える。
僕はふと、コンノートプレイスの「トモダチ」が懐かしくなった。
トモダチと言いながら法外な料金を吹っかけてくる客引き。
非暴力のガンジーも、仏教の開祖ブッダも、ゼロを発見したのも、バラモンなのにお金を巻き上げている老僧侶も、足にお金をくくりつけてヴァラナシで息絶える旅人も、荼毘に付される親族を見守る家族も、ガンジス河で死人の身に着けていた貴金属をザルで救っている男も、全部インドだ。
インドでは生きることも死ぬこともあからさまなのだ。
僕も田中君ももうサークルなどはどうでも良くなっていた。
確かにサークルでワイワイやっている同年代は楽しそうだ。
ただ、同世代の友達と酒とノリだけで時間を消費するのはもったいないような気がしたのだ。
もっと色んな国がみたい。
そう思った。
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