Chapter21「人間不信」
帰りはリキシャーをひろって帰るつもりだったが、旦那さんが車でメイン・バザールまで送ってくれた。
部屋に戻ってふたたびいろいろなことを検証すると、Delightでの会話をひとつひとつ思い出してみても、やはりあれらが演技だとは思えないという結論になった。
旦那さんは不平を言わないという誓約書も関係ないと言っていたが、本当だろうか?
すでに僕らは人間不信になってしまっていたので、洋子さんたちのことも完全に信用することはできなかった。
あれほど「もう知らないインド人の運転する車に乗るのはやめよう」と話していたのに明日乗ることになっている。
「人に旅のプランを話すのはやめよう」と話していたのに話している。
経験上、インド人は初め親切にしていてこちらが断りずらくなったところでお金の話をする手口を多用する。
今回も結局後で旦那さんの旅行代理店でツアーを組まされるんじゃないだろうか?
それともサインに反してこちらが訴訟を起こそうとしているので、サイン違反で裁判に負けて膨大なお金を請求されることになるのだろうか?
僕らとにせ政府観光局やDelightが信用だけで繋がっていたのと同じように、僕らと洋子さんたちも信用という細い糸だけで繋がっている。
血のつながりがあるわけでも日本で会ったことがあるわけでもないので、僕らは洋子さんたちを無条件で信用するわけにはいかない。
実のところ、まだ僕らは今日会った人達が「本物の」洋子さんたちだと確信しているわけでもないのだ。
インドに行く前におばあちゃんが洋子さんに頼んでくれて僕も電話で話したことは確かなので、デリーに洋子さんという人物が存在することは間違いないのだが、今日の日本人女性が本物の洋子さんだとは限らない。にせ政府観光局のやつらが差し向けた偽者かもしれない。
ただ、僕らが洋子さんたちを疑っているということを本人たちに言えるわけがない。
明日も知らないインド人の車に乗るのは正直怖いが、それを言えば洋子さんたちのことを信用してません、と言うに等しいので言えるわけがない。
旦那さんのお兄さんが弁護士だという証拠も見せてもらっていない。
結局、信用しているから協力してもらっているという点では、Delightに協力してもらっていたのが洋子さんたちに代わっただけで何も進歩していないことに僕らは気づいていた。
洋子さんたちはにせ政府観光局とDelightがグルだと言っていたが、もしかするとにせ政府観光局と洋子さんたちがグルで、サイン違反をした僕らが裁判を起こして負けて賠償金を払わせるのが目的なのではないか?という疑念まで湧いてくる。
「まさかそんなことあり得ないだろ?」
田中君と話し合うが、起こらないはずのことが起こってきたのがインドなのでわからない。
どちらかというと洋子さんたちよりDelightのほうが信用できるのが怖い。
二人とも胃が痛くなり、吐き気がしてきた。何か大きなものに巻き込まれている気がする。
インドにいて行動を把握されていることほど怖いことはない。
監視されている対象が、にせ政府観光局→Delight→洋子さんたちに代わっているだけだ。
そう思うとあのカップルが洋子さんたちがよこした監視役にも思えてくる。
あんまり深く関わりすぎたので僕らは消されるのだろうか?
そう言えば、洋子さんはうちから家族の写真が送られてきたから会ったときすぐわかったと言っていたが、日本から写真がそんなに早く届くものなのだろうか。
とりあえず明日家に電話して洋子さんに写真を送ったか聞いてみることにしよう。
これでもし送っていたら少しは信用できるし、送っていないと言われたら、デリーにこれ以上いるのは危険だからもう日本に帰ろう。
アジャイゲストハウスにはあのカップルがいるし、ここに泊まっているのをバグワンダスや洋子さんたちに知られてしまっているので、明日はホテルを変えよう。
そう結論を出して今日は寝ることにした。
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