Chapter19「ナラヤン家の夕食」
アジャイゲストハウスの前で待っていると、洋子さんは旦那さんと息子のアーディン君を連れてやってきた。
なぜか20歳くらいのカップルも一緒だ。
洋子さんはインドの民族衣装のようなものを着ていて、さすがインドで暮らしているだけあってと言うべきか、肝の座っていそうな風貌をしている。
洋子さんの旦那さんは背が高くてがっちりとした体格の、少しこわもてのインド人だ。
僕らはずっと「旦那さん」と呼んでいた。
なんとなく風貌にもマッチしている。
アジャイのレストランでチャイを飲みながら詳しく事情を話すことになった。
洋子さんはアーディン君を抱っこしながら話を聞いている。
ひとしきり話したが、やはり「Delightもグルだろう」ということだ。
僕らはDelightが怪しいなんて信じられません、と言ったが、洋子さんのほうは完全にDelightはグルだと思っているようだ。
しかし、いくらDelightでの色々なシーンを思い出しても、あれらがすべて作られたシチュエーションだったとしたらあまりにも手が込みすぎているし、とても彼らがグルだとは思えない。
僕らはバグワンダスのことに話題を移した。
「政府系のリキシャーというのはあるんですか?」
すると旦那さんは
「そんなものはあるわけない」
と、いかにもくだらないといった表情で言った。
やはりバグワンダスは完全に「クロ」だ。
「電話をすれば空港まで迎えにいってやったのに」
旦那さんにオフィスから電話を自分でかけなかったことや、相場を確認せずに高額なツアーを組んでしまったことを怒られた。
一緒に来た男女はどうやらカップルではないらしい。
女の子のほうは洋子さんの知り合いの知り合いの娘で、空港まで迎えにきてもらうことを頼んでいたが、空港に着いても洋子さんたちに連絡せず、僕らと同じようにコンノートプレイスに来る途中で悪徳旅行代理店に騙され(15ドルほどらしいが)、電話して泣きついてきたのを助けてここまで連れてきたのだという。
男は単に空港からその女の子と車をシェアしただけで、二人は今日初めて会ったらしい。
洋子さん達は僕らと同じようにインドに来る日本人をたくさん助けてきたのだろう。
旦那さんも怖そうに見えて、実は人情派なのだ。
「今日のホテルは取ったの?」
旦那さんが聞いてきた。
「まだ取ってません」と言うと、じゃあ今日はもう一日アジャイに泊まれ、ということになり、僕らはフロントで延泊手続きをすることにした。
「ワンモアナイトプリーズ」
と言ってパスポートを差し出す。
旦那さんが手続きをしている僕らに「アジャイは問題ないか?」と聞いてきたので、居心地もいいしスタッフも親切で安心できます、と答えると、あの男女もここにチェックインさせていた。
僕らはこれから洋子さんの家に行き、夕食をごちそうになりながらゆっくりと今後のことを話すことになった。
車に乗り、ナラヤン家へ。
途中で夕食の食材を買う。
車で信号待ちをしていると、頼んでもいないのに車の窓を拭いてお金を要求してくる連中がたくさん寄ってくる。
旦那さんや洋子さんは慣れているのか、そこに誰も存在しないかのように振舞っているが、僕は少し居心地が悪かった。
「お金をあげるのは彼らのためにならないのよ」
洋子さんの言葉に僕は確かにその通りだと思った。
お金をあげることで確かにその日は生き延びれるかもしれない。しかし、それでは何も問題は解決しないのだ。
『魚が欲しいと子供が言ったら魚をあげるな。魚の釣り方を教えろ』
と何かの本に書いてあったが、まったくその通りで、魚をあげるのはむしろ子供にとって害悪だ。なぜなら魚を釣ろうとしないので結局自分で生きていくことができないからだ。
僕らは彼らに魚の釣り方を教えることはできない。
ナラヤン家に到着した。
そこはいかにもインドの上流階級といった感じの家で、うちよりもよっぽどいい暮らしをしていそうだ。
夕飯にはカレーをご馳走になった。
家には旦那さんのご両親もいた。
旦那さんのお父さんは今はすでに定年退職しているが、昔はデリーの警視総監のような人物だったらしい。
話は本題に入り、サルダンさんからもらった名刺やDelightで書かされた同意書を見せた。
ジャイプールのホテルクラシックの名刺も運転手からもらっていたのだが、どうやらWimpyでにせ警官に見せた時にとられたようで、なくなっていた。
自称マフィアの堀さんの話もしたが、パスポートを偽造できるわけがないと旦那さんに一蹴された。
「旅行代理店どうしがグルになって全額を払い戻さないようにする手口なのよ」
洋子さんはそう言った。
旦那さんが携帯で誰かと話している。
「兄と話しているのよ」
洋子さんが教えてくれた。
アーディン君は相変わらず無邪気に遊んでいて本当にかわいい。
旦那さんのお兄さんは弁護士だということだ。
弁護士がインドでどれほどすごいのかはわからないが、旦那さんのお父さんといいお兄さんといい、この家族がエリート一家なのは間違いない。
僕はふとかたわらにいるアーディン君に目をやり複雑な気持ちになった。
お母さんが日本人でお父さんがインド人のアーディン君はきっと高い教育を受け、日本語と英語とヒンドゥー語を操るエリートになるのだろう。
インドのもう一方の現実が、ここにはある。
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