Chapter18「バグワンダスの変心」
2月18日。
バグワンダスと約束した9時半に田中君に待ち合わせ場所に行ってもらい、僕が体調を壊したので今日はホテルで休みたいと言うと、バグワンダスは「具合を見たいから連れてきてくれ」と言ったらしい。
田中君が部屋に戻ってきた。
「呼んでこいって言ってるんだけどどうする?」
仕方なく1階に降りてバグワンダスと会うと、
「体調が悪くて観光に行けないことをDelightの人間に話してほしい」
と彼は言った。「It's my duty(それが私の義務だ)」ということだ。
僕が体調が悪いので勘弁してくれ、と言うと「5分で済むから」と言ってきかない。
まあ、すぐ戻れるならいいかと思って僕と田中君はバグワンダスのリキシャーに乗り、Delightに向かった。
オフィスに着くと、「オフィスの人間がくるまで待ってくれ」とバグワンダスは言い、彼と僕らはテーブルを挟んで椅子に腰を下ろした。
程なくして彼は驚くべきことを喋り始めた。
それは、「昨日自分は危険をおかして600ドルを取り戻したから明日の観光も含めて一人60ドル払ってほしい」という内容だった。
僕らは仰天した。
結局金か。
同時に一瞬でも彼を友達だと思っていた自分達が情けない。
紳士的な態度を崩さずに「友達」の僕らに金を要求するバグワンダスの顔は、昨日の親切な彼とは違って見える。やはりあれは演技だったのか。
きのうの夜の検証で、すでにバグワンダスは「灰色」だという結論に達していたが、彼は「クロ」だった。
こうなればもうバグワンダスに対する情はない。
だが一日を費やしてお金を取り戻してもらったことに僕らが引け目を感じていたことは事実で、彼の要求を全てはねのけるのは少し気が引けた。僕らは交渉モードに入った。
「一人60ドルは高い」
案の定、バグワンダスは「二人で110ドル」「二人で80ドル」とどんどん値を下げてきた。
それでも僕らが渋っていると、
「本当は300ドルもらうべきだが友達だからスペシャルプライスだ」
とバグワンダスが言ったので僕らは馬鹿馬鹿しくなってきた。
「明日の観光をキャンセルしたらいくらだ」
と僕が聞くと、キャンセルしてもしなくても80ドルらしい。
600ドル取り戻してもらったのは事実だし、バグワンダスが哀れに思えてきたので、僕らは金を払ってもうバグワンダスやDelightとは手を切ろうと決心した。
助けてもらったDelightに対して何の見返りもあげられないという罪悪感も、彼に金を払うことで僕らの中では幾分やわらぐ。
僕らは80ドルに相当する4000ルピーを彼に支払った。
オフィスには使用人らしき人間しかおらず、僕らはツアーを組むつもりがないという意思表示と、このバグワンダスの要求をサルダンさんたちに告発することができなかった。
そのために明日バグワンダスと11時に待ち合わせをして少々観光し、16時に再度オフィスに行くことを約束し、アジャイに戻った。
僕はストレスからくる胃痛と心を許していたバグワンダスに裏切られたショックで喋る元気もなくしていた。もはや日記をつける気力も起きない。
・・・話は前後するが、実は今日は洋子さんと旦那さんと16時半にアジャイの前で会う約束をしている。
昨日、つまりにせ政府観光局からお金を取り戻した日、Delightから夕方アジャイに戻るとフロントに洋子さんからのメッセージが預けられていたのだ。
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けんいち様 日本のご両親も心配していらっしゃいますので、是非一度私の所に電話して下さい。 「お金を盗られた」とのことですが、いつどのようにして?? 警察や日本大使館へは連絡していますか? 自宅Tel ×××-××× 携帯 ××××-××××××× です。 帰ってきたらすぐ連絡して下さいね。 (ナラヤン洋子)

【注】アジャイゲストハウスのフロントに預けられていたメモ
どうやら心配して僕らを探し回ってくれていたようだ。
しかし、不謹慎にも僕の頭に最初に浮かんだのは感謝の気持ちよりも
「これって本物の洋子さんの残したメモなのかな」
という疑問だった。
田中君も同じ疑問を持ったようだ。
「なんで俺たちの泊まってるホテルがわかったんだ?ふつうに考えておかしいよな」
僕らはにせ観光局のやつらが僕らを探しにきたんじゃないかと思ったのだ。
とにかく僕はインド到着初日以来、3日ぶりに実家に電話を入れた。
最初に電話に出たのは母だった。
「けん!?今どこにいるの?無事なの?」
なんか電話の向こうはただ事ではない雰囲気だ。
どうやら僕らは行方不明扱いだったらしい。
僕は最初、なぜそんなに心配しているのかが良くわからなかったが、簡単にこれまでのいきさつを説明し、無事であることを伝えた。
続いて父が電話に出た。
「心配したんだぞ!?電話ぐらいしろよ!」
「電話したじゃん!田中君のお母さんから聞かなかった?」
父の話では田中君のお母さんからは単に僕らが騙されてお金がなくなったという情報しか伝わっていなかったらしい。
喧嘩になった。
「洋子さんからもけん達から電話ないからおかしいなぁっていうメールがきたからどっかで騙されて行方不明になっているんじゃないかって心配したんだぞ」
「え?洋子さんにはちゃんと電話したはずだけど」
その時初めて僕らは、あの時にせ政府観光局のオフィスでナラヤン家に電話したと思っていたのは、実は別の人物に繋がっていたのだという事実を知った。
今日洋子さんが僕らの居場所を探してくれたのは、どうやら父と母が心配して僕らを探してくれるように頼んだというのが真相のようだ。
僕は洋子さんに電話を入れ、この3日間の出来事を話した。
「それはそのDelightってのも怪しいわね。とにかく明日会って話そう」
僕は「Delightが怪しい」と言った洋子さんの言葉に少なからず動揺した。
まさかそんなことがあるはずがない。
と言うよりも、もしそうだったら本当に気が狂ってしまうかもしれない。
--------------------------------------------------------------------------・・・と、ここまでが17日の話だ。
とにかくも僕らは洋子さんと今日(18日)16時半に会うのである。
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