Chapter17「疑念」
600ドルは50ルピー札の束で27000ルピー分受け取ることになった。枚数にして540枚だ。
厚さ5cmほどの札束が2つ、ホッチキスでとめられている。
おそらくわざとこういう形にしたのだろう。これを全部数える気にはなれない。
帰り際、イタリア系が握手を求めてきたので僕は応じた。もう彼と会うことはないだろう。
分厚い札束を受け取った僕たちは、さっきと同じように
------------------------------------------------------------------- 私たちはCTTに1200ドル騙されたがDelight India Tours の協力を得て600ドルを取り戻しました。 今後このことに対してDelight India Toursに一切の不平不満を申し立てません。 -------------------------------------------------------------------
と書いてサインをした。
アミさんが、
「こんなもの書いてもらうのは初めてなんだけど、この前ああいうことがあったばかりだからごめんね」
と、言って謝ってくれた。
僕は「まあ当然だろうな」という感じで納得していると、自称マフィアの堀さんが入ってきた。
「おまえら良かったなぁ。でもわかってると思うけど、もし恩を仇で返すようなことをしたら家までつぶしに行くからな」
と、冗談なのか本気なのかわからない口調で僕らに念を押した。
おそらく堀さんの人情深くて熱っぽい性格を考えると本気なのだろう。
求められたので僕らは堀さんに家の住所と携帯番号を教えた。
「3月12日に電話をかけるから俺からかかってきたことがわかるように俺の携帯教えとくわ」
と、堀さんは下4ケタをのぞく番号を教えてくれた。(070-5592-????)
マフィアだから完全な番号を知られるとまずいらしい。
Delightや堀さんたちとの会話のはしばしに、ここなら安全なツアーが組めるから良かったな、みたいな話がでていたが、僕らは相手がどこであれ、もうツアーを組むのはごめんだった。
ただ、助けてもらってまったく彼らの売上げに貢献しないのも悪いと思ったので、取り合えず話だけでも聞こうということを田中君と相談して決め、明日もう一度くることを約束した。
すでに夕方になっている。
車でメイン・バザールまで送ってくれるというので、好意に甘えることにした。
サルダンさんと奥さんが玄関で見送ってくれたが、僕らが車に乗り込もうとすると、さっきまで姿が見えなかったバグワンダスがどこからか現れ、彼も車に乗り込んできた。
車の中で、バグワンダスは「明日観光に連れてってやる」と申し出てくれた。
「ガイド料はいくらですか?」
聞くと、お金はいらないと言う。
「お金なんて言うな。友達なんだから無料だ」
ほんとにこいつはいいやつだ。
僕らはバグワンダスと朝9時半にアジャイゲストハウスの前で待ち合わせることにした。
部屋に戻り、あまりにもいろいろなことが起こった今日の出来事を、僕と田中君はひとつひとつ検証することにした。
バグワンダスとの出会い、偶然イタリア系と道路で再会したこと、サルダンさんとアミさんのこと、交渉中に現れたにせ警官などなど、とても今日一日で全部起こったとは信じ難い。
「おい、今日まだ17日だぞ。もう2週間ぐらいいる気がするよ。ハハハ」
田中君の言葉に僕も笑うしかなかった。あとインドに3週間もいるなんて僕の神経は耐えられるのだろか。
田中君の知り合いにインドに来てあまりのショックを受け、2週間ホテルに引きこもっていたという人がいるらしいが、それを聞いた時はその人を馬鹿にした僕も、今ならその気持ちがよくわかる。
ともかくも2002年2月17日は、僕にとって今までの人生で一番濃い一日となった。
しかし、今日のことを振り返っているうちに、僕らはふとある疑念を持ってしまった。
それは、Delightに助けてもらったことは感謝してもしきれないのだが、なぜかまたツアーを組まされようとしている事実だ。
確かにツアーを組まされてもDelightが僕らに費やした手間と時間を考えると安いものだが、やはり少しおかしい。
特にバグワンダスが最初会った時に、「政府系のマークはどれですか」という僕らの質問に対し「あとで答える」と言って結局答えなかったことや、それまでオフィスにいなかったのに帰るときにタイミングよく現れたことなどから、一連の事件で極度の人間不信に陥っていた僕らは「バグワンダスはあやしい」と思いはじめたのである。
そういえばイタリア系に走行中に偶然声をかけられたというのもなんだか変だ。
バグワンダスとイタリア系たちがグルだとしたら、すべて合点がいく。
そう考えるとバグワンダスが出入りしているDelightもあやしいということになってしまうが、今日交わされた会話や実際にお金を取り戻してくれたことなどを考えるとDelightを疑う余地がない。
サルダンさんの奥さんであるアミさんの人柄とすでに大きいお腹を思い出しても、彼女が人を騙すとはとても考えられないのだ。
僕らはDelightに対する結論は保留し、バグワンダスに関しては彼を信用するのはやめよう、と決めた。
今日、生まれて初めて胃がキリキリと痛くなるという経験をした僕は体調を壊していた。下痢が止まらない。
明日は観光はやめてホテルで休んで対策を練り、あさってDelightに行くことにしよう。
かくして僕らの長い長い一日は終わったのである。
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