Chapter16「奪還」
昼をかなり過ぎていたので、オフィスで出前のターリーをごちそうになることになった。
サルダンさんの妻、アミさんもオフィスにやってきた。
アミさんはすでにお腹が大きく、サルダンさんとの間に赤ちゃんがいるらしい。
年齢は20代後半ぐらい、美人で少しおっとりした感じの素敵な女性だ。
昼食は自称マフィアの2人とアミさん、僕と田中君とその時その場にいた日本人バックパッカーの男1人の、計6人でとった。
日本人ばかりということもあり、ドラゴンボールや日本食の話題など、たわいのない話をしながら昼食の時間は和やかに過ぎていった。
日本語でおしゃべりをしていると、とてもここがインドだとは思えない。
途中から仕事をひと段落させたサルダンさんも会話に加わり、アミさんとの出会いや、デート中チンピラに絡まれそうになったアミさんをサルダンさんが撃退した話などを聞かせてくれた。要するにおのろけ話だ。
サルダンさんはまた、軍人時代に受けた腕や背中の傷の数々を見せてくれた。
「男の勲章だよ」
よく見ると、サルダンさんはただの恰幅のいい(ぽっちゃりした)おじさんではない。
太い腕には筋肉が盛り上がっているし、体中に年季の入った傷が無数にある。
訓練中に足を怪我して軍隊を退役し、今は旅行代理店を経営しているが、そうでなければ戦場で命を賭して国を守る屈強の男だったのだろう。
昼食を終えてしばらくすると、僕らはセカンドマネージャーに呼ばれた。
またボスの事務所に行って1000ドルを返せと交渉に行けと言われ、僕らは現実に引き戻された。
「また二人だけであの事務所に行くのか・・・」
正直、もう二度とあそこには行きたくない。
そういう僕らの気持ちを察してくれたのか、サルダンさんがあのにせ観光局に電話をかけてくれると申し出てくれた。
サルダンさんは、「軍人時代の人脈を使って脅せば相手は怖がってお金を返しにくるだろう、まかせなさい」と言って力こぶをつくる仕草をしてみせた。
「助かったぁ。なんていい人なんだ」
田中君も喜んでいる。
サルダンさんは、僕らと接する穏やかな喋り方とは打って変った激しい口調で、電話口に出たにせ観光局の人間をどなりちらしている。
「サルダンさん怖ぇな。さすが元軍人だな」
しかし、あのボスといいサルダンさんといい、インド人が何かを激しく主張するときの口調は日本人の僕らにとっては怒っているとしか思えない。案外、これが普通なのだろうか。
電話を置くとサルダンさんは、
「彼らが700ドルを持ってくるそうだ」
と言い、にっこりと笑った。
1000ドルでなく700ドルなのは、僕が交渉で700ドルだと主張したからだろう。
とにかくお金が返ってくる。
「やっと取り戻せるな」
僕らはうれしさと安堵感でいっぱいになり、その場にいた全員にお礼をした。
1時間ほどすると、イタリア系ともう一人の男がDelightにやってきた。
僕らは奥の部屋で話をすることになった。
正直、イタリア系とこういう話をするのは複雑だ。
その場にDelightの人間がいなかったからか、彼らが提示してきた額は500ドルだった。
僕らが700ドルと言ったはずだ、と主張すると今度は550ドルに上げてきた。なんてせこいやつらだ。
最終的に600ドルまで上がり、
「お願いだからこれで折れてくれ」
とイタリア系は僕らに懇願した。
僕らもいい加減彼らと交渉することに疲れてきたので、それで折れた。
ブースから出てサルダンさんに600ドルになってしまった事の顛末を話すと、イタリア系と激しい口調で揉めていた。
彼らが値切ったことに怒ったのかはわからないが、よく聞くと彼らがお金を持ってこなかったらしく、もう一度取りに行かせるということらしい。
サルダンさんは「ちゃんと700ドル持ってこさせる」と言ってくれた。
イタリア系たちがお金を持ってくるのを待っている間、バグワンダスと話し、そこで初めて彼の名が《 BHAGWAN DASS 》(バグワンダス)であるということを知った。
それまで僕らは彼のことを単に「リキシャマン」と呼んでいた。
バグワンダスとEメールアドレス交換をし、「日本に帰ったらメールしてくれ」と言われた。
当然そのつもりだ。彼と出会わなかったらお金は取り戻せなかっただろう。
彼は、
「2回目にインドに来るときは、もし自分のことを友達だと思ってくれるのなら尋ねてきてくれ」
と言って住所まで教えてくれた。《DELHI 57 VILLAGE NAHARPOR ×××××》
またインドにこよう。
今回は嫌な目にあったが、インドにもサルダンさんやバグワンダスのような本当に親切な人達はいる。
次に来るときにはもう慣れているので楽しい旅が出来るだろう。
サルダンさんにもメールを出したり、日本に帰ってからお礼をしよう。
僕がインドへの感慨をまた新たにしていると、しばらくしてまたイタリア系がやってきた。
なんと彼らは600ドルしか持ってこなかった。
僕らは当然そのことに文句をつけたが、またサルダンさんとイタリア系が揉めだし、サルダンさんが「この額じゃ納得しないか?」と聞いてきたので、これ以上サルダンさんたちに迷惑をかけるのは申し訳ないし、緊張つづきで胃が痛くなってきたので合意した。
僕らは払い戻し証明書を書かされた。
--------------------------------------------------------- 17/2/2002 私達〜(田中君の本名)と〜(僕の本名)は、 CTT(にせ観光局のこと)で1200ドルのツアー を申し込みましたが、払い戻しをしたいので600ドル 受け取ります。 今後この問題について不平不満を致しません。 ---------------------------------------------------------
こんな感じの文章を書き、日付・住所・名前・パスポート番号を書いてサインをした。
イタリア系がウィンクしてきたのは「妥協してくれてありがとう」というサインだろうか。
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